投票することによって自分の生活がどう変わるのか。この可能性の問題。
実業家のひろゆき氏(47)が13日に「X」(旧ツイッター)を更新。選挙戦略についての持論を展開した。
多くの候補者が出馬し7日に投開票された東京都知事選については、選挙の在り方も含め、さまざま議論がいまだ続いている。ひろゆき氏は「テレビは候補者全員を呼ばないと違法なので、テレビで主要候補者討論会は不可能。候補者が知名度を上げるにはネットを使うしかない」とした上で「今後はタレントに金払ったりしてネットのコンテンツを増やす候補者が票を伸ばす。長期的に、貧乏人が勝つ余地が無くなるのは不味くない?」と問題点を指摘した。
ひろゆき氏は10日に放送されたABEMA TVのニュース番組「Abema Prime」に出演。都知事選で約15万票を獲得したAIエンジニア・安野貴博氏と妻・里奈氏らと、選挙報道について議論を繰り広げ「ネットメディアに候補者が出演すると、裏でお金が動く。演者にお金を払わないマスメディアが平等・公正を捨て、まともそうな候補者を選んで討論会を行った方が結果的には良いんじゃないか」と意見を述べている。
インターネットで政治は変わったのか? ひろゆき氏「若者を見下しすぎ。ネットに情報が増えても投票に行かない」国政選挙における本当の問題点は“ゆるふわ戦略”と“減点主義”?
ネット選挙解禁から8年、政治家がYouTubeやSNSなどのネットを利用することは、今や当たり前の時代だ。これによって若者の関心が高まると思いきや、なぜか投票率は下降の一途。一昨年の参院選では、ネット利用率が高いはずの20代の投票率は60代の半分以下だった。ネットの活用によって、アクセスできる情報量が増えたにも関わらず、なぜ投票率は上がらないのだろうか。
ニュース番組『ABEMA Prime』では、31日行われる第49回衆議院議員選挙を特集。ネットやSNSが政治にどのような影響を与えているのか議論を行った。
ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「”ネットで情報が増えたから投票に行くだろう”といった考え方は、若者を見下しているような気がする。ネットに情報があるかないかに関わらず、テレビなどから情報はいろいろ手に入れている。その上で”別に投票に行ったって俺の人生は変わらない”とちゃんと判断した結果だ。ネットで情報を得ても、その判断は変わらない。予想された結果ではないか」と分析。
一方、政治ジャーナリストの安積明子氏は「ネットがまだうまく使われていないような感じがしている。特に地方では、昭和から政治の勢力構造自体が全然変わっていない。握手をしたからといって投票するわけではないと思うし、有権者はそんなに甘くない。ただ、政治家は握手をすると、握手の感じで安心する。有権者と握手をしようと、手を伸ばしたとき逃げるか逃げないか、そういったところを政治家は(情勢を肌で)感じて、票読みしている。握手の方が効くと思っている人は、握手の感触で自分の支持率を(測っている)。世論調査に近い」と握手の重要性を指摘する。
インターネットでは投票率は上がらないのだろうか。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、時代とともに変化していくと分析する。
「これは世代交代と共に変わっていく話だ。インターネットは分極化していて、今の若い人はどちらかというと、情報を見て、きちんと判断する人が増えていると感じる。世代交代していけば、普通にネットで情報を得て政策から判断していく有権者が増えてくるのではないか。
握手すると安心感があるというのは政治家側からするとそうなのかもしれないが、有権者側が握手で(相手に投票するかどうか)判断することは、少なくても都市部ではなくなってくると思う。“田舎は”と言うが、日本は人口比でいうと半分以上が都市人口。昔の自民党は保守政党で農村が地盤だと言われたが、農林水産省の公表データを見ると農業人口は200万人を切っている。そうなると、大半が都市部の住民で、若者が中心になってくる。団塊の世代から人口が減っているし、段々と高齢者が多い逆ピラミッドの状態からフラットになっていけば、ネットを中心にした政策論争が普通に成立する時代がやってくるんじゃないかな」
この分析に、ひろゆき氏は
「政治の情報が手に入るかどうかと、投票に行くかは関係ない。投票することによって自分の生活がどう変わるのか。この可能性の問題だと思う。”あなたの1票が総理大臣を決めます”だったら、もうちょっとみんな投票に行くと思う。でも、若い人たちが、選挙に2回、3回行くと”投票に行っても変わらないよね”と気づく。”それだったら自分の時間をもっと有意義に使いたい”となっているだけ。別にネット上に政治の情報があるかどうかは、大した理由じゃない」
と今後も投票率があがらないだろうとコメント。
今後も、若者の投票率は下がり続けていくのだろうか。佐々木氏は「政治に関心がないから行かないのではなくて、政治に関心を持つ必要がないから行かない。でも、国政選挙の投票率の推移を見ると2009年は若者も(投票率が)高い。(20代の)投票率が50%ぐらいある。これは政権交代の時だ。あの頃は自民党を全く信用できなくなって”民主党に頼るしかない”といった空気が生まれたから、盛り上がってみんな選挙に行った。
80年代、90年代だと”政治に興味がない方がクール”と言われていて、経済も盛り上がってバブル時期だったから政治に興味を持つ必要がなかった。2012年の第2次安倍政権以降に関して言えば、もはや就職率は向上し、失業率は低下し、経済が良くなっているという安心感があった。だから、政治にさほど関心を持たなくても、今の政権で”まあまあいいか”と思っている人が多い可能性はある。
”政治を変えないといけない””投票しない”といけないというと、まるで今の政権をひっくり返さないといけないと思っている人が多いかもしれないが、今の政党支持率を見ると、今の10代、20代が選挙に行ったら単に与党が勝つだけだ」
一方、脳科学者の茂木健一郎氏は政策自体にも問題があると指摘する。
「正直な気持ち、与党も野党もあまり政策は変わらない。最近、選挙戦が単なる”就職活動”に見えてしまう。政策よりも”私は議員になりたい。私を議員にしてください”と言っているように見えてしまう」
佐々木氏は「政策の違いが分からないのはメディアの責任も大きい」と説明する。「経済政策が与野党で変わらないのは大きな誤解だ。やることは同じであっても財源はどこなのか、全く違う意見だ。これは与党がこうで野党がこうではなくて、与野党入り混じって政治家によって言っていることが違う。何もないところからお金は生まれない。だから、どこから生むのかというのは結構大きな議論だ。そういうのがちゃんと議論としてあんまりメディアで浮上していない。そこをちゃんとテレビや新聞が見せる努力をしていないのがかなり大きな問題。だから”与党も野党も経済政策は変わらないよね”となってしまう」
また、慶応義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「選挙期間中になると、メディアがちゃんと政治を報道しない。公平性を強く意識するがあまりに、9党を全く同じように扱う。しかし、今回の選挙を見る限り、もう少し、大きな政党とそれに対する野党の違い、その違いをもうちょっとクローズアップしてやってもいいのではないかと思った。
なぜかというと、すごく小さい政党は政権を取る可能性がないから、いくらでも適当なことを言える。ノーブレイナ―(No-brainer)というのはまさにそうで、全く財源をどこにするか関係なく、バラマキを言える。真剣に考えているのかもしれないが、少なくとも現実性はない。それを(公平に報道を)やっていたら違いがよく分からない」とコメント。
ひろゆき氏も
「アメリカの大統領選のように候補2人がお互いに討論する番組があると、違いがはっきり分かる。アメリカの場合は、与党第1党と野党第1党の”ここが違うんだ””あなたのここが違うんじゃないか”と言い合いをする。それを見て、有権者が”自分の考えはこっち側だ”となる。そういう場が日本にない。違いがよく分からないし”これだったらどの党に入れても変わらないよね”が今の日本だと思う」
一方、佐々木氏は「ネットを見ていると、真っ当に政策をきちんと分析して、争点は何なのか、論点の違いは何なのか、それを書いている記事はけっこうある。それをみんなが共有できているかというと、全くできていない。読んでいる人が限られている。
小さな政党でも、まともなことを言っている党と荒唐無稽なことを言っている党と両方ある。パッと見で選挙報道だけ見ると、どのように違うのかよく分からない問題は、夏野さんがおっしゃる通りだ。そこをメディアがどうやってきちんと見せるのか。これをもう少し考えてもらわないと。
例えば原発に賛成か、反対か。あるいは選択的夫婦別姓やLGBTの法律に賛成か、反対か。それだけでは分からない部分がある。自民党が出したLGBTの法案が潰れたが、あれもなぜ潰れたのか、背景まで知らないと、なぜ野党が提出した法律に反対しているのか、その状況まで分からない。そこがすごく中途半端になってしまっているから、争点がより見えづらくなっている」とコメント。
ひろゆき氏は
「仮に争点が分かったとしても、例えば与党の人が”分配なくして成長なし”と言ったら、いつの間にか分配を言わなくなっていることがある。つまり、与党第1党の一番偉い人でも言っていることが変わる。じゃあ、その人が実際に政権を取っても”どうせやらないだろうな””その場その場で勝手に決めるんだろうな”と、発言自体がそもそも信用できない。だから”政策の話を聞いてもしょうがない”というのはあるかもしれない」
この指摘に佐々木氏は「それはひろゆきの言う通り。日本の政治に最も欠けているのは、政策論争もそうだが、政治哲学だ。今後の政治において共同体を優先するのか、新自由主義的に市場原理を優先するのか。あるいは保守主義でいくのか。そこの議論をもっとしなくてはいけない。
全てが自分に合う政党なんてないし、今ひろゆきが言ったように後から政策がコロッと変わったりして、統一性がない。議論を全て政策論争にしてしまうのではなく、本当は根本的に日本をどんな国にしたいのか。そこの哲学の部分を議論しなくてはいけない。それが著しく欠けていると僕は思う」
一方、夏野氏は「ただ、今それをやるとレッテル貼りされる。自民党の総裁選のときに個別の問題に対して、はっきり発言した候補者と曖昧に発言した候補者だと、はっきりと言った候補者は反対(する人)が明確に出てくる。”え、何なの。こんなこと言って大丈夫なの?”と。だから、はっきりと物を言わない”いろいろ考える。これから考える”という候補者の方が得になる。そういう体質がやっぱり日本の選挙にはあると思う。そうすると、ゆるふわな曖昧戦略をする候補者がどんどん得になっていく」とコメント。
佐々木氏も「(日本には)リーダーシップを嫌うといった、不思議な民族習性がある。ここは難しいところで、結局政治家について採点するときに、どこまでリーダーシップがあるか、力を発揮できるか、それがネガティブ要素として捉えられてしまう。どちらかというと減点主義で”余計なことを言わない政治家の方が良い”みたいな。さきほど夏野さんがおっしゃっていたような話になってしまうわけだ。本当に戦前からずっとそうだ。リーダーシップを嫌う。どちらかというと空気の圧力で物事が決まることを良しとする。その結果、戦争で泥沼に陥り、新型コロナでは何も決められないまま、自粛だけで物事が進んでいく。本当にこのリーダーシップをどうするのか。根本から考えなくてはいけない問題だが、なかなかできない」と説明。
また、安積氏は「元々自民党は右から左まで多様なところがある。よく言われるのは”自民党は政党ではなくて政党連合であって、本当の政党は派閥である”と。そういったところと政策論争をやるなら、野党は相当強力な組織を作っていかないと対抗できない。自民党のそういった枠を一回で崩さないと、なかなか政策主体の政治は実現できないだろう」と分析する。
議論を受けて、茂木氏は「冒頭でひろゆきが言ったことはすごく大事。若者はバカではない。投票に行っていないのは実際に自主的に判断して“行っていない”。こういう議論を政治家同士がやってくれたら面白いのに」とコメント。
しかし、夏野氏は「政治家同士が議論をすると、どうしても”高齢者どうするの?””地方に手厚いんじゃないの?”という話になる。結果、票を失う」と政治家同士の議論は難しいだろうと推測する。
茂木氏も「そうだ。実質的な議論をすると、票を失う構造がある。政策をシャープにして厳密にすればするほど、仲間は減っていき、政党は小さくなる。結局、ゆるふわの発言をする党が大きくなる」とコメント。
政治家同士の議論は困難な背景について佐々木氏は「タブー」の存在も大きいと説明。
「タブーという言い方をすれば、政治家が議論してはいけないポイントが多すぎる。いろいろなタブーがいっぱいある。そのタブーがあると、政治家は誰も何も言えない。ゆるふわになってしまう」
「タブー」の存在に夏野氏は「そこはメディアが突っ込むべき。新聞社やこういうテレビ番組も含めて”このままいくと日本は終わってしまうのではないか”という話を誰も言わない。それがちょっとまずいなと思っている」とメディアも追及すべきと指摘した。
都知事選では、YouTubeチャンネル登録者数は石丸氏が圧勝だったとのこと
東京新聞などが実施した当日出口調査では、ネット上の情報に多く接しているとみられる若年層(18~29歳)の投票先は、石丸氏が約42%で、小池氏の約27%、蓮舫氏の約15%を大きく上回った。
畠山氏は石丸氏の演説について、「『政治屋の一掃』といったフレーズが分かりやすい」ため、一部を切り取った動画を作りやすいと指摘。そうした動画は再生回数が稼げるため、さらに多くの配信者が演説に集まる。これまで政治に接点のなかった有権者には、石丸氏が「政治的な初恋の相手」となり、無党派層のファンが拡大したとみる。
「ワンフレーズが切り取られ、それだけで評価される政治は危うい」とした上で、「情報を発信する側も工夫が必要で、受け取る側も意識的にさまざまな情報に接していく必要がある」と指摘する。
ネット選挙運動 2013年4月の公職選挙法改正で、同年7月の参院選から解禁された。候補者や政党、有権者が選挙期間中、ウェブサイトやX(旧Twitter)、YouTubeなどを使った運動をできる一方、有権者はメールを使った運動を禁止されている。
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