TVでもよく見るようになった、エコノミスト、エミン・ユルマズ氏
■1000万円をコツコツ貯められる人が生き残る
──1000万円のお金をつくる方が、1億円をつくるより難しいと言っています。どういうことでしょう。
よく言われていることなんですが、これは資本規模と複利というお金の性質の問題です。たとえば会社員が元本ゼロで貯金をする事例を考えてみましょう(別表参照)。
毎月2万円ずつ貯金をするとします。1年で24万円、10年で240万円、20年で480万円、30年で720万円になります。次にこの2万円を年率5%複利で運用すると1年約24.5万円、10年で約310万円、20年で822万円、30年で1664万円になります。900万円の差が生じます。
では積み立てが4万円ならどうでしょう。貯蓄なら30年後に1440万円ですが、5%複利なら3329万円。1900万円の差額が生じます。5%は基本的な金利で、かなり安全なライン。ノーリスクの米国債でも5%の金利だから十分、実行可能な数字です。
今、老後貯蓄2000万円問題と言われていますが、月4万円、5%の複利積み立てならば30年で3000万円を超えますよ!
では5万円の積み立ての場合はどうか。株式の基本的な運用年利である8%で計算すると、1000万円になるには11年かかりますが、1億円を超えるには、そこから23年でいけます。
──株式投資で年利8%のリターンは現実的な数字なのでしょうか。
20年や30年の長期で考えれば株式市場のリターンは年10%ぐらいあります。このように複利は指数関数的に上昇します。1億円到達後は5万円複利なら、翌年には800万円以上金利が入ります。一般世帯ならば永遠にお金は減らないはず。すでに1000万円を所有している人は23年後に1億円に到達するスタートラインに立てているから超ラッキーです。FIRE(早期リタイア)もできます。私はファイアを目的にすべきだとは思いませんが。
1億円をつくれる人、つくれない人
1000万円はつくるのも維持するのも大変です。それでも、少ない手持ちでスタートしてリスキーな取引で1000万円をなんとかつくれたとしましょう。この人はその後、23年の間に1億円をつくれるかというと99%の人が失敗するはずです。最初にうまくいった人は自分が天才トレーダーだと思ってしまうからコツコツ運用できないんです。お金を貯めては勝負して口座を飛ばすことを繰り返すはずです。
──投資にはメンタルも必要になりますね。
上昇相場で、1億円に達する人は結構いるんですが、1億円をキープできる人はごくわずか。最初の1000万円を投資ではなく、毎月の積立金を増やすとか、より給与のいい仕事に転職するとか、副業をやるなどして、少し犠牲を払いながら貯金をした人のほうが維持できると思います。
──なんとか70歳までに1億円を貯めたとします。だけど、もう年だし体力的に旅行はきつくなった。自分はなんのためにお金を貯めたのかって、思うことになりませんか。
実際には日本の場合、お金をもっとも自由に使うようになるのは50代半ば以降でしょう。子どもが大学を卒業して働き始める世帯の場合です。その頃に旅行をしたり、趣味にお金を使ったりし始めていますよ。たいていの世帯が貯蓄のほとんどを投資に回しているわけではありません。さきほど挙げた5万円運用の事例ですら自分の楽しみをある程度やりながら、余剰資金で投資もしているという例です。もっと生活を切り詰める運用モデルもありえます。
ストーリーを理解できる会社に投資を
──お金の使い方で注意点は。
これからの時代、日本人はインフレ(物価上昇)を理解しないとなりません。日本人のマインドはかなりデフレ的でしたが、これからはインフレになるからです。円は価値をどんどん失っていきます。こういうときは早く動かなければなりません。母国のトルコでは6月の消費者物価指数は前年同月比75%上昇しています。27年前に日本に初めて来たときはカルチャーショックを受けました。日本人はなぜこんなにインフレを警戒していないのだと驚きました。インフレは世界的な現象で日本だけが違っていきました。しかし、今から日本もインフレと付き合わないといけなくなります。インフレが徐々に進行しているから、日本人は茹でガエルになっていて気づいていません。これからは現金を保有することはリスクになります。昨年10万円で買えたモノが今年は10万円では買えません。金利がほとんどもらえない預金はお金を増やしてくれません。私はミドルリスク・ミドルリターンをとるタイプですが、日本人はインフレを理解するまでローリスク・ローリターンの投資姿勢で行った方がいいです。
──投資のコツはありますか。
投資にはある程度の知識が必要です。パソコンやテレビ、ゲームを買うにも、服を買うにも、何も考えずに何万円も払わないはずです。このテレビは録画機能があるのかと調べたり、電器店に実物を見に行ったり、1カ月も2カ月も迷ったりしますよね。それが株や投資商品になると、人にすすめられてすぐに買ってしまう。このような買い物の資金移動は簡単ですが、高い買い物です。せめて、テレビを買うぐらい調べて買ってください。
──エミンさんは、どれくらい調べて投資しますか。
私は自分の頭の中で投資のストーリーをつくれたものを買います。たとえば会社への投資である個別株投資はストーリーがつくりやすく難しくないと思っています。必要な良い商品やサービスをつくっていて、それを自分が好きで使っていて、店舗展開もしていて、だから株価は伸びるだろうと思える会社を選んでいます。そんな会社に投資することが私は投資の根本だと思います。株価ではなくそのストーリーに基づいて投資判断をする。株価が上がろうが、下がろうが、そのストーリーが生きている限り、その株を保有する。だけど品質が低下したり、経営がおかしな方向に行くなどストーリーが崩れたら売却します。四半期ごとに、ストーリーが生きているかチェックして判断すれば、損切りも怖くありません。
──ビジネスモデルがわかりやすい会社がいいわけですね。
私はバイオが専門ですが、いまだにこの業界がわかりません。ストーリーがつくりづらいですね。投資家が好きなハイテク株も躊躇します。だけど、暗号資産みたいな、みんなが中身をわからない金融商品ほどバブルになりやすいんです。中身がわからないほど仕手化しやすいのです。そしてみんなが飛びついて資産を失ってしまう。
エミン・ユルマズ氏についての記事:
引用記事
「円は価値をどんどん失っていく。日本人はデフレ思考を捨て、インフレ時代に備えよ」エミン・ユルマズ氏が提言 (日刊ゲンダイDIGITAL) (smartnews.com)