現在放送中の秋ドラマで映像にこだわった作品と言えば、『嘘解きレトリック』(フジテレビ系、毎週月曜21:00~)。同作は昭和初期が舞台であり、放送前は「民放に時代物は難しい」と不安視されていたが、西谷弘チーフ監督ら演出陣がどこかノスタルジーを感じさせる親しみやすい映像美で魅了している。
そんな西谷監督が演出したドラマと言えば、『白い巨塔』(03年)、『ガリレオ』(07年)、『任侠ヘルパー』(09年)、『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(14年)、『シャーロック』(19年)、『あなたがしてくれなくても』(23年)など名作ぞろい。ただ、「隠れた名作」と言われ、動画配信サービスでの“一気見”に向いているのが、『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(18年 ※FODで配信中)だ。
原作は19世紀フランスの作家・アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』(巌窟王)で、舞台を現代日本に移してドラマ化された。放送当時は「よくある復讐劇の1つ」とみなされがちだったが、どんな見どころがあったのか。さらに圧巻の最終回とは? あえてある程度のネタバレをしながら、その魅力にふれていく。
「大河ドラマ級」のキャスティング
まず導入部分のあらすじをあげておこう。
物語は2003年春、漁船員だった柴門暖(ディーン・フジオカ)は喫茶店を営む目黒すみれ(山本美月)へのプロポーズを成功させ、幸せの絶頂にいた。しかし、暖の乗る遠洋漁船「海進丸」が遭難してしまう。何とか生還して、すみれと結婚式を挙げるが、その最中に身に覚えのない罪で逮捕されてしまうところからスタートした。
暖は遠い異国の牢獄で拷問を受け続けていたが、8年後の2011年に投資家・入間貞吉(伊武雅刀)の身代わりにされ、息子の刑事・公平(高橋克典)が関わっていたことを知る。2017年になってついに脱獄に成功し、ようやく故郷に帰還したが、親も家も失っていた。
さらに旧知の仲だった南条幸男(大倉忠義)と神楽清(新井浩文)による裏切りを知り、復讐を決意してシンガポールに向かう。1年後の2018年、暖は牢獄で知り合ったファリア真海(田中泯)の莫大な遺産を引き継いでモンテ・クリスト・真海に改名し、投資家として帰国。自分を陥れた人物への復讐を進めていく。
あらすじを見ると、やはり「よくある復讐劇の1つ」と思うかもしれないが、まず登場人物の相関図がすごい。
主要キャストだけでも、ディーン・フジオカを筆頭に大倉忠義、山本美月、高杉真宙、葉山奨之、岸井ゆきの、桜井ユキ、三浦誠己、渋川清彦、新井浩文、田中泯、風吹ジュン、木下ほうか、山口紗弥加、伊武雅刀、稲森いずみ、高橋克典の17人が出演。これ以外でも、久保田悠来、尾上寛之、嶋田久作、高橋努、柳俊太郎、黒沢あすかなどの経験豊富なバイプレーヤーが出演した。
その人数に加えて若手からベテランに至る幅の広さもあり、放送当時に取材した太田大プロデューサーが「大河ドラマ級」と自負していたことを記憶している。この出演俳優たちが競い合うように感情むき出しの演技を見せたのだから、面白くなるのは当然かもしれない。
刑事部長、有名俳優、建設会社社長、料理研究家、世界的投資家ら、そうそうたる肩書きに登り詰めた人物が真海の復讐を受けていくのだが、物語はそれだけに留まらない。
禁断の不倫、マフィアの暗躍、両親殺害の過去、偽りの死産、生き埋めや毒殺など、怒涛の展開が連鎖していく。さらに、真海の協力者たちにも悲しい過去があり、感情移入を誘われるなど、最後まで飽きさせない生死と愛憎をめぐるジェットコースタードラマだった。
“ジェットコースタードラマ”と言えば90年代序盤に流行したジャンルで、上下動の激しい展開がノンストップで続き、目まぐるしく変わる人間模様で視聴者を引きつけていたが、最も有名なのは91年放送の『もう誰も愛さない』(フジ)だろう。同作が平成初期のジェットコースタードラマなら、『モンテ・クリスト伯』は平成最後のジェットコースタードラマと言っていいかもしれない。
とりわけ異例の1時間前倒し、かつ2時間スペシャルとして放送された最終回は圧巻だった。真海は復讐の総仕上げとして当事者を集め、「最後の晩餐会」を開くのだが、15年の年月をめぐるその内容は何とも哀しすぎるものだった。
ここで詳細は書かないが、プロポーズと「バンザイ」のむなしさ、そして復讐劇の締めくくり方。視聴者の批判を恐れてハッピーエンドを選ぶ作品ばかりの中、余白や余韻を残して解釈を投げかけるようなラストは圧巻だった。原作小説と同じ「待て、しかして希望せよ」というメッセージも含め、近年のドラマで最も印象的な最終回と言っていいかもしれない。
実際、多くの視聴者が解釈を共有するようにコメントを書き込むなど、ネット上には好意的な声が続出。翌週になっても「モンクリロス」「フジを見直した」などの称賛がやまなかった。
放送当時は『おっさんずラブ』(テレビ朝日)が旋風を巻き起こしていたが、ネット上で「もう1つの隠れた名作」として並び称えられていたのが当作。両作とも放送終了後に視聴者自身が作った“架空の続編”をX(当時・Twitter)に書き込まれるほどだった。
一話完結では得られないカタルシス
圧倒的なイケメンと存在感が称えられる一方、「何を演じてもディーン様」と言われがちで、演技力は必ずしも評価されていなかったディーン・フジオカは当作で評価が一変。純粋な漁船員から、凄惨な拷問に苦しむ姿、スマートな投資家に変貌しての帰還、復讐を執行する冷酷な男という落差を演じ切り、最終回は少しのセリフと表情で繊細な感情を表現して感動を誘った。
西谷弘、野田悠介、永山耕三の演出陣が手がける洗練された映像も、黒岩勉らしい人間の業をえぐるような脚本も回を追うごとに冴え渡り、視聴者の感情移入を加速。今秋のゴールデン・プライム帯は16作中9作が刑事・医療・法律がテーマでその大半が一話完結の構成だが、終盤にはそれらでは得られづらい特大のカタルシスが得られる作品となった。
2013年の『半沢直樹』(TBS)の大ヒット以降、各局が復讐劇の連ドラを量産。2018年の放送当時もゴールデン・プライム帯で3期連続だったため、「またか」という感はあったが、そんなマンネリを忘れさせる快作であり、それは6年過ぎた今でも色あせていない。
コラムニスト
木村隆志
引用記事:
ディーン・フジオカ主演『モンテ・クリスト伯』は数ある“復讐劇”の中でなぜ「別格」なのか…一気見に最適な理由 | マイナビニュース