┗『海に眠るダイヤモンド』第5話 ©TBSスパークル/TBS
神木隆之介主演の日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』が放送中。本作は、1955年からの石炭産業で躍進した長崎県・端島と、現代の東京を舞台にした70年にわたる愛と友情、そして家族の壮大な物語だ。今回は、第5話のレビューをお届けする。
ネタバレあり
●”いづみ=朝子”は誰と結婚したのか?
┗『海に眠るダイヤモンド』第5話 ©TBSスパークル/TBS
どうして今まで気づかなかったのだろう。『海に眠るダイヤモンド』に出てくる人たちの名字がほとんど明かされていなかったことに。そこには決定的なネタバレが含まれていたのだ。
現代の東京に生きる玲央(神木隆之介)の前に現れた謎の婦人、いづみ(宮本信子)の正体がついに明らかになった第5話。玲央は彼女の孫たちと話す中で「いづみ」が下の名前ではなく、旧姓「出水」であることを知る。そして、ゴクリと唾を飲み込んだのも束の間、下の名前が「朝子」と判明した。
高度経済成長期の端島を舞台にした過去パートでは、玲央と瓜二つの青年・鉄平を中心とした男女6人の人生と、彼らの一筋縄にはいかない複雑な恋愛模様が描かれてきた。しかし今回、いづみの正体が朝子(杉咲花)と判明したことで、その中の1つの恋の結末が決まったも同然となる。
以前、玲央に鉄平のことを「忘れられない人」と語っていたいづみ。すなわちそれは、朝子の初恋が実らないことを意味する。夫とは20年以上前に死別したというが、果たして誰と結婚したのか。食堂の看板娘だった朝子がなぜ東京で大きな会社の社長になるに至ったのか。それは残りの物語の中で描かれていくのだろう。
ただ唯一分かっていることは、いずれ端島は炭鉱の閉山に伴って人がいなくなり、廃墟と化すという事実。そして、今や鉄平たちの大事な仲間となっているリナ(池田エライザ)がどこかのタイミングで逃げるように端島を去らなければいけなかったということ。私たちはそろそろ、悲しい結末を見届ける覚悟を決める必要があるのかもしれない。
●「終わりの始まり」を意識せざるを得ない第5話
┗『海に眠るダイヤモンド』第5話 ©TBSスパークル/TBS
特に、この第5話は「終わりの始まり」を意識せざるを得ない回だった。1958年12月、一平(國村隼)たち端島炭鉱の鉱員は「全日本炭鉱労働組合(通称:全日炭)」の意向に従い、期末手当の賃上げを求める“部分ストライキ”を行なう。
これに対して、鉄平(神木隆之介)たち鷹羽鉱業側は、鉱員たちの要求を退け、鉱山のロックアウトを実施。ロックアウトされると賃金自体が出ないため、生活に困る鉱員たちは暴動を起こし、怪我人が続出する事態となる。
鷹羽鉱業側の先頭に立ち、鉱員たちを制止していたのは鉄平だ。だが、ひとたび暴動が収まれば、骨折した鉄平の周りには笑顔の鉱員たちが集まってくる。それは鉄平の人柄によるものだろう。「一島一家(島全体が一つの家族)」という端島に根付く考えに基づき、自分たちを上から押さえつけるのではなく、対等な目線で向き合ってくれる鉄平に鉱員たちは信頼を置いている。
そんな彼らが代わりに、怒りの矛先を向けるのは賢将(清水尋也)だ。ロックアウトの際、封鎖には普通鉄線が使われていたが、数箇所だけ有刺鉄線が残されており、鉱員たちは賢将に疑いの目を向ける。
しかし、直前に父である炭鉱長の辰雄(沢村一樹)に掛け合って、有刺鉄線から普通鉄線に変えたのは賢将。それに、彼はこれまでも鉄平と社宅の割り当てに関する新しい制度の導入を検討するなど、鉱員たちが働く環境をより良くしようと努めてきた。
その思いが鉱員たちに伝わり切っていないのは辰雄の影響も大きい。島の人たちに愛されていた前炭鉱長とは違い、鉱員たちと線を引いて馴れ合おうとしない辰雄への不満がそのまま息子である賢将に向けられているのだ。
けれど、最初に線を引いたのはどちらなのだろう。賢将の母は「こんな離島、耐えられない」と言って家を出て行ったというが、幹部職員の妻として周囲から距離を置かれ、「一島一家」に入れてもらえなかったことが原因とも考えられる。辰雄の“島嫌い”はそういうところから来るのかもしれない。
●負の側面もある「一島一家」の意識
┗『海に眠るダイヤモンド』第5話 ©TBSスパークル/TBS
今回の騒動をきっかけに分断される人々の心を再び一つにしてくれたのは、一平の行動だ。子供の頃、父親と2人きりの生活になってから、たびたび鉄平の家を訪れるようになった賢将。
一平も辰雄に対しては色々と思うところはあるのだろうが、賢将をその息子として色眼鏡で見るのではなく、快く受け入れて寝食を共にした。それこそ、本当の家族のように。
そんな賢将が島で孤立しているのを見兼ねた一平は「うちのカレーいつ食いに来るんだよ」と声をかけ、「あいつはな、うちの家族なんだよ。俺の自慢の息子!みてぇなもんだ」と言ってざわつく他の鉱員たちを黙らせる。その心意気に思わず目頭が熱くなった。端島を象徴とする「一島一家」の考えには、自分たちの輪に馴染めない、あるいは馴染もうとしない人を排除しようとする負の面もあった。
だが、みんなで力を合わせれば、もっと別のところで自分たちを分断しようとする流れに争うこともできる。鉄平たちは今回の騒動を生んだ労働組合制度の仕組みを変えるための投票を実施した。これをもって、できた溝がすぐに埋まるわけではないかもしれないが、それぞれの島民が自分たちがどうあるべきかを考えるきっかけにはなっただろう。
┗『海に眠るダイヤモンド』第5話 ©TBSスパークル/TBS
そんな島民たちをよそに、完全に2人きりの世界を築いていたのがリナと進平(斎藤工)だ。もともと博多のクラブで働いていたリナは周辺の店を仕切っていたヤクザにおわれ、一緒に逃げようとしていた恋人が殺されたことを進平に打ち明ける。ともに愛する人を失ったもの同士、心を通じ合わせる2人の絆をさらに強める出来事が起きる。
賢将と殴り合いになった小鉄(若林時英)は母親の治療代を稼ぎにきている苦労人の炭鉱員などではなく、リナの追っ手の一味だった。リナを助けに来た進平と揉み合いになり、彼が発砲した球は進平の腹部をかすめる。
しかし、さすがと言っていいのかはわからないが、戦争を経験した進平は予想以上に肝が据わっていた。進平が撃ち返した球は小鉄の胸部に命中し、そのまま海へと落ちていく。罪を共有した2人のキスはこの後に及んでもロマンチックで、気持ちがかき乱された。
資本主義や労働者階級に切り込んでいく社会派な部分で脚本家の野木亜紀子らしさを感じる本作だが、こういうサスペンスフルなラブストーリーはむしろ監督である塚原あゆ子の作品であることを強く感じさせる。まさに一つで二度美味しいドラマだ。
ということは、リナが端島を去るときに抱いていた赤子は進平の子供である可能性が高く、それが今回DNA検査でいづみとの血縁関係はないことが明らかになった鉄平の父という線も考えられる。だって、進平は鉄平の兄で、その孫が鉄平に似る可能性は十分あるのだから。
ただ気になるのは進平がなぜ、リナと一緒に端島を出なかったのかということ。進平は戦下を生き延び、今回もかすり傷で済んだ。本来ならば、誰よりも生命力が強そうなのに、どこかで彼を纏う死の匂いが不穏な空気を漂わせる。
引用記事:
斎藤工”進平”がまとう死の匂いとは? 池田エライザとのキスシーンに動揺させられたワケ。『海に眠るダイヤモンド』第5話考察