たとえばカラーコーディネーターの資格を取ったところで、そもそもカラーコーディネーターという仕事はありません。
配色に関するスキルはインテリアデザイナーやプロダクトデザイナー、CADオペレーター、ウェディングプランナー、フラワーアレンジといった、デザイン系の仕事に就く人が持っていたら有利な「知識」というだけで、資格を持っていなくても総合的なデザイン力で評価される世界ではマストな資格ではないかもしれません。
国家資格必須の仕事でもAIに奪われていく
もちろん、就職で大きなアドバンテージになる資格はあります。医師や司法試験(弁護士、検事、裁判官)、公認会計士、司法書士、税理士、不動産鑑定士のような最難関の国家資格になれば、将来生活に困るようなことは考えにくいでしょう。
ただ、それでもAIの発達と普及によって仕事が減ったり、収益化が難しくなることは十分考えられることです。
たとえばDX先進国のエストニアでは税務処理の自動化がどんどん進んで、税理士の需要が激減しています。
訴訟社会のアメリカでは弁護士がたくさんいるわけですが、過去の判例に基づくアドバイスならAIのほうが圧倒的に早く手軽なので、アメリカ社会全体として賃金が上昇しているのに弁護士の収入は下落しているそうです。
免許取得のハードルが高い日本の薬剤師も、結局やっていることは薬に関する膨大な知識を暗記することと調剤なので、AIとロボットに置き換えたほうがはるかに正確で早く業務を回すことができます。
人間の薬剤師がいきなり「全部不要!」となることは考えられませんが、規制緩和に伴い、採用の門戸が狭まっていく可能性はかなり高いと考えられます。
絶対に有利な「大卒カード」と「英語力」
大事なのは事前の見極め。「何十時間、何百時間もかけて資格を取ったところでそのコストに見合うリターンはあるのか?」という冷静な判断が必要になると思います。
これからの時代を「楽しく生きる」にせよ「しぶとく生きる」にせよ、僕が若い人全般におすすめする資格・スキルは2つあります。
それは「大卒カード(大学卒業資格)」と「英語力」です。この2つを持っていることは絶対に有利です。もちろんこれらがなくても人生で幸せをつかむ選択肢はいくらでもありますが、将来の不安を少しでも軽減したいなら、大学を卒業することと、英語を勉強しておくことをおすすめします。
この2つの強みを持っていることで、人生の選択肢にめちゃくちゃ大きな差が生まれると思っています。
英語については本書の第6章で単独で取り上げるので、ここでは大学について話をしておきますね。
「大学不要論」を鵜呑みにしてはいけない
「日本の大学に行ったところでどうせ勉強しないんだから時間と金のムダ」
「大学に行かなくても社会的・経済的に成功する方法なんていくらでもある」
「社会人として成功するスキルは大学では教えてくれない」
最近、こういった意見を耳にします。これを真に受けると危険です。
こういう意見を声高に語る人に限って、めちゃくちゃ優秀で、道なき道をゴリゴリ切り開けるサバイバル能力マックスの人だったりします。つまり、「学歴」というものに一切頼らなくても、自分の能力やスキルでお金を稼げる人たちです。
でも、残念ながら世の中のほとんどの人は、僕を含めて凡人です。そんなすごい能力を持ち合わせていません。
そんな普通の若者が「大学なんてムダだ」という言葉を信じて大学にいかないとどうなるか? 就きたい職業が見つかって採用面接に行くと、「ああ、高卒ですか」と一蹴される可能性が高いわけです。
学歴フィルターはいまだに残っている
かつてソニーは採用プロセスにエントリーシートを導入し、出身大学を一切不問としました。その取り組みを他社も積極的に真似するようになったことで、まるで日本では「学歴社会なんて過去のことでしょ」といった印象を受ける人もいるかもしれません。
学歴に頼らない生き方が選択肢として増えたのは事実です。でも、学歴社会自体がなくなったわけではありません。
そもそも公務員だってそうですよね。公務員のなかでもハイキャリアの国家公務員総合職を目指す場合、「大卒」以上の学歴が必要です。
大卒資格と高卒資格の待遇差(初任給の違いなど)も歴然としてありますし、社会全体もそれが悪だと思っていないので(社会人でも大学に行ける時代なので)、しばらくは是正される可能性は低いんじゃないでしょうか。
海外は日本よりも「露骨な」学歴社会
海外はどうなのかというと、実は海外のほうがはるかに学歴社会だったりします。
海外で働きたいと思っても、そもそも大卒でないとビザが降りないなんてことはザラ。結局、どの国もできるだけ優秀な人材に自国で働いてもらって自国経済を強くしたいと思っているわけで、判断基準のひとつが「学士(=大卒資格)」なのです。
またアメリカでもフランスでも会社で管理職として出世したいなら、大学院を出ていることが大前提。
上司に忠誠を尽くし、上司を出世させれば自分も出世できる日本の会社とは大違いです。
欧米の会社では、高卒者がホワイトカラーになることはそもそも無理ゲーに近いですし、学士の資格者ですら、基本的に一般職に就くことしかできません。
日本のような「たたき上げ」の制度もないので、出世して高給取りになりたいなら一度会社を出て大学院に入るか、自分で会社を興(おこ)すしかありません。
奨学金を借りてでもFラン大学に行くべき理由
日本では高校卒業後の進路として専門学校という選択肢もあります。「名前を書けば受かるFラン大学に行って遊びまくるより、専門学校で2年間、ひとつのことをみっちり学んだほうが将来の役立つのではないか」という考え方もあるでしょう。
でも僕に言わせれば、専門学校に行くのもいいですが、奨学金を借りてでもFラン大学に行くほうがもっと役立つと感じます。
理由は2つ。
ひとつは先ほど言ったように「大卒」資格のほうが就職の選択肢が広がるからです。
専門学校はたしかに高等教育機関のひとつではありますが、アメリカだと「Vocational School」。「職業訓練校」くらいの意味です。
もうひとつは、日本の専門学校は即戦力育成を前提にしているので、学ぶことは基本的に実務に近いことです。だとすれば18歳から現場で見習いとして働けば、たとえ給与は安くても、勉強ができてお金ももらえて「一石二鳥」です。
仕事に余裕が出てきたら、通信制の大学などで学士を取る選択肢もありでしょう。
成績がイマイチでも、就職への影響は小さい
しかも日本人にとっては幸いなことに、いまの日本の大学受験ではペーパーテスト不要のAO入試や一芸入試のような新しい選抜方法もあります。
そして一度入学してしまえば、たいして勉強しなくても卒業できるのが日本の大学の「よさ」でもあります。
日本の大学生の中退率は年間たったの2%くらいだそうです。しかもそのうち学力不振が原因で退学した人は7%ほど。ほかの大学に転籍するとか、やる気がなくなって欠席しまくり単位落としまくりとか、就職や起業をしたとか、経済的に厳しくなったといった理由がなければ、ほぼだれでも学士の資格はとれます。
さらに、日本企業は採用時に学生の人柄や適性を重視するため、成績を一切見ない会社がほとんど。最近は成績を見る会社も少しずつ増えているようですが、主流にはなっていません。
ちなみにアメリカの会社に若手が就職するときは、GPA(成績平均)は最優先項目ではないものの、足切りの材料などで使われます。
「学士」はラクして取れるコスパ最強の資格
ちなみに、関係者から聞いた話ではありますが、日本の大学としては欧米の大学のようにやる気のない学生をどんどん振るい落としたいそうですが、それをすると文科省から「成績が悪いのはお前らの教育が悪いせいだろ!」と文句を言われるので、泣く泣く卒業させているということもあるようです。
「仕事の能力がないのは、お前らの会社の教育が悪いせいだろ!」と怒られる解雇規制とまったく同じ理屈です。
なので、日本の大学のゆるさは当面、変わりそうにありません。
そう考えると、日本の学士(大学卒業資格)は、いまの日本でもっともコスパのいい資格ですよね。