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「グランメゾン・パリ」 料理関係者たちからも熱い注目を集めている理由

 

フランス・パリで大規模なロケ撮影も行われた(画像:映画『グランメゾン・パリ』公式サイト)

2019年のTBS系日曜劇場『グランメゾン東京』から5年。2024年末にその続編となるスペシャルドラマ『グランメゾン東京』と、映画『グランメゾン・パリ』が公開されて話題になっている。

『グランメゾン東京』は、フランスでシェフの座を失った口下手で不器用な天才料理人・尾花夏樹(木村拓哉)が料理人・早見倫子(鈴木京香)と出会い、東京でミシュラン三つ星獲得を目指して奮闘する全11話のドラマだ。

そして2024年末に公開されたスペシャルドラマ『グランメゾン東京』と映画『グランメゾン・パリ』は2019年の続編ともいうべき内容で、連続ドラマ上でミシュラン三つ星を獲得した『グランメゾン東京』のその後が描かれる。

この映画、フランス料理に日々携わる全国の料理関係者たちからも熱い注目を集めているのをご存じだろうか。

2019年の連続ドラマ期間中、筆者はフランス料理のシェフに会うたびに「ドラマ、見てますか?」と尋ねるようにしていた。結果はほぼ全員が「YES」。当時から、舞台設定や料理のリアリティに共感を寄せるシェフが多く、"中の人"たちのこのドラマへの注目度の高さに驚いたものだ。

また食べ手側、つまりフランス料理が好きなゲストの注目度も高く、ジビエがテーマの回のあとはジビエの注文が増え、鹿肉のロティが登場すれば鹿をメインに選ぶ客が増えたという。

そして今回もまた、公開早々から料理関係者が次々と映画館に足を運んでいるようで、SNSには「見に行きました」という、レストラン関係者やフランス料理愛好者たちの投稿が増え始めた。

真っ黒なステーキに込められたリアリティ

『グランメゾン東京』と『グランメゾン・パリ』が、これほどまでにプロから注目を集めるのはなぜだろうか。

その理由のひとつに、これらの作品が料理やレストランを描く際に徹底して現実世界とリンクさせ、リアリズムを追求したことがあげられる。

スペシャルドラマ『グランメゾン東京』の料理監修は、ミシュラン三つ星を18年間維持し続けている「レストラン カンテサンス」(東京・北品川)シェフ岸田周三さんが担当、映画『グランメゾン・パリ』はパリ「レストランケイ」の小林圭さんが担当している。小林さんはフランスのミシュランガイドにおいて、アジア人で初めて三つ星を獲得したシェフだ。

 
映画『グランメゾン・パリ』の料理監修を手がけた小林圭シェフと、スペシャルドラマ『グランメゾン東京』の料理監修を手がけた岸田周三シェフ(画像:『グランメゾンプロジェクト』公式Instagram / @gurame_tbsより)

ドラマでは岸田さんが、映画では小林さんが実際に店で出している料理が登場する。「山羊のミルクのババロア」は岸田さんの、「庭園風季節のサラダ」は小林さんの実際のスペシャリテ(名物料理)だし、それ以外の料理でも「今、ここ」で画面に登場してリアリティがあるかどうかは、料理人なら必ず見ているポイントだろう。

たとえば『グランメゾン東京』肉料理のシーンで出たバヴェットステーキ(番組での料理名は「真っ黒な牛ハラミのロースト」)。ドラマではソース・ボルドレーズ(赤ワインを主体にしたソース)にマリネしたバヴェット(牛ハラミ)をローストし、仕上げにマデラ酒のソースをかけている。

これも、近年実際に「カンテサンス」で提供されている料理だ。久住栞奈(中村アン)が「低温調理じゃないんだ」とつぶやいていたが、なぜこの料理がこのシーンで選ばれたのだろうか。

岸田さんは、師であるパリ「アストランス」のパスカル・バルボ氏とともに「低温長時間ロースト」を行うシェフとしてかつて名を馳せた。岸田さんが行う低温調理は肉のジューシーさを保ち、素材が持つ風味や個性を引き出す、技術の要る調理法だ。

しかし近年は手軽な低温調理器が普及したこともあり、低温調理を施された肉料理に出会うことが増えた。もちろん、岸田さんが施す低温調理とは別物だ。

今回登場したバヴェットステーキはその揺り戻しともいうべき、フライパンで焼く昔ながらの調理法だ。素材の温度感や料理のライブ感をより強く感じることができ、だからこそこの料理が新たに生まれ変わった『グランメゾン東京』を象徴するメインとして選ばれたのだろう。一周回ってクラシックな調理法が見直されている現代の風潮を反映したものといえる。

一方『グランメゾン・パリ』で描かれたのはフランス料理という「型」の強さだ。

『グランメゾン・パリ』ではさまざまな国のルーツを持つ人が働いているという設定になっており、映画では彼ら一人ひとりの異なる個性や強みをすべて料理の中に盛り込むことで、伝統あるフランス料理が革新されていく様子が描かれる。

尾花は、かつて自分がフランス料理を志したのは、フランス料理の多様性に対する懐の深さに気づいたからだった、という自らの原点を思い出す。たとえ白味噌を用いてもフランス料理になる。その自由さから新しい料理が生まれるという設定は、現実世界と同じだ。

ドラマに自分の生き方を投影するシェフたち

料理関係者たちは、映画で登場する料理や料理人の生き方に自らの生き方を重ねているようだ。

2019年の連続ドラマでは、毎回、料理人の生き方をめぐるテーマが盛り込まれていた。

たとえば、若手がシェフに努力を認めてもらえないときどう乗り越えるかが描かれた第6回、仕事と家庭の両立を描いた第7回、病気と老い、仕事へのモチベーションをとりあげた第8回など、どの回にも料理人の生活や才能に関する悩みや「あるある」が詰まっていた。

北海道・函館にあるレストラン「maison FUJIYA」オーナーシェフ藤谷圭介さんは、映画公開後すぐに見に行ったひとりだ。

「(映画の中の)料理を見ながら、自然と涙が流れていました。私自身フランス料理を作る料理人として、常にさまざまな葛藤を胸にレストランで働き、函館という地方都市で日々お客様を迎えています。今回の映画を観て、料理人という仕事の素晴らしさや、レストランが夢を与える存在であることをあらためて感じました」(藤谷さん)

ほかにもSNSでは、役者の料理する所作に注目したり、シェフというポジションの孤独さに共感したりする感想が聞かれた。メッセージをくれたシェフの中には「クライマックスの料理シーンをもう一回見たい」という感想もあった。

進化と革新を続けるフランス料理の「強さ」

尾花や倫子たちがミシュランの本拠地フランスで三つ星を目指すという、これまでなら荒唐無稽ともみなされそうな筋書きは、小林圭さんが2020年にフランスで三つ星を獲得した事実によって、ぐっとリアリティを増した。

映画の中で「外国人が日本ですし店を開いたとして、三つ星クラスの食材が簡単に手に入ると思うか?」というせりふがあった。

料理以前に食材集めひとつとっても、フランスにおいて外国人である日本人がフランス料理で三つ星を取るというのは、シェフ(尾花)ひとりの才能や努力だけでは到底実現できない、想像を絶するほど困難なことなのだ。退路を断ってその困難に挑む尾花たちの姿に、スクリーンの前で自らの生き方を重ねる人も多かったにちがいない。

そして『グランメゾン・パリ』は、多様性を受け入れながら伝統を革新させてきたフランス料理の本質を、ストーリーの重要な骨格として据えた。

フランス料理の本質的な強さは、常に進化と革新を続けるところにある。そのことを訴えかける今回の『グランメゾン東京』と『グランメゾン・パリ』は、ゲストと、そしてみずからの料理と日々向き合うプロの料理人たちの心をも動かすものになったといえるだろう。

 

引用記事

プロの料理人も涙「グランメゾン・パリ」のリアル 「もう一度見たい」とシェフに言わせるリアリティ | グルメ・レシピ | 東洋経済オンライン