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地面師詐欺が発覚「積水ハウス事件」を間一髪で回避した不動産会社が気が付いたニセ地主の「ひとこと」

リアル地面師。

Netflixドラマで話題に火が点き、「地面師」はもはや国民的関心事となっている。

11月1日(金)には、あの人気番組「金スマ中居正広の金曜日のスマイルたちへ)」でも地面師特集が放映されたほど。同番組では、ネトフリドラマの参考文献になったノンフィクション『地面師』の筆者・森功氏がゲスト出演して、地面師の手口を詳しく解説している。

不動産のプロですらコロッと騙されるのだから、私たち一般人が地面師に目をつけられたらひとたまりもない。そのリスクを回避するためには、フィクションのドラマを観るより、地面師の実際の手口が詳細に書かれた森氏のノンフィクションを読むのが良いだろう。

森功著『地面師』より、自己防衛の参考になる箇所を抜粋してお届けしよう。

『地面師』連載第8回

内部事情にも詳しい地面師たち

「たしか佐妃子さんの入院は4月だと聞きましたけど、地面師たちはそのあたりの内部事情にも詳しかったのでしょう。ちょうどその頃から、僕のところにも海喜館を買いたいという不動産業者が5〜6社、訪ねてきました」

町内会の役員は、記憶の断片をつないでそう語ったが、正確には彼女が入院したのは2月のことだった。実は海老澤佐妃子には、母親の異なる名取弘人、㓛という2人の弟がいる。両親が別れたあと、父親が別の女性に産ませた息子たちだ。つまり2人には旅館の相続権がある。事態に気づいた名取兄弟は2017年の7月、慌てて相続手続きを済ませた。と同時に、地面師一味を相手取り民事訴訟を起こした。

その裁判資料によれば、幽門前庭部に癌を患い、床に伏せっていた海老澤佐妃子の容態が悪化したのは、2017年2月13日のことだという。彼女は急遽、東京・広尾の日本赤十字社医療センター7階の7A病棟702号室に入院した。そこは末期の癌患者に対するケアー病棟で、彼女はすでに延命治療も断っていたものとみられる。

そしてこのあたりから、地面師グループの作成したニセ海老澤佐妃子のパスポートや印鑑証明が、不動産業者に持ち込まれる。町内会の役員は、こうも話した。

営業マンの会話でニセモノと判明

「ニセ佐妃子さんの写真付きのパスポートのコピーを持ち歩いていた不動産業者は何社かありましたね。ある不動産会社の営業マンたちが手にしていたのは、2008年に作成されたパスポートでした。パスポートの写真を持ってきて『これは海老澤佐妃子さん本人ですか』と確認して歩いていました。またなかには、弁護士事務所の会議室で撮影されたという彼女の写真まで持ちまわって本人かどうか確認してほしいという会社もありました。もちろんそれらの写真は佐妃子さんとはまったく似てない。それで『ぜんぜん違うよ』と言ってやってね。実はそれでおかしいと気づいた業者も多かったんだよ」

町内会の役員は、「ニセ地主を面接した不動産業者までいたんだよ」と次のような裏話までしてくれた。

「ある不動産会社は、仮契約寸前までいって、実際、写真の女性とも会った、と言っていました。指示どおり、ビルの会議室に連れて行かれると、佐妃子さんを名乗る女性には、白髪の弁護士と10人ほどのいかつい男が付き添っていたらしい。女性はほとんど口を開かなかったので、その場の会話はなかったみたい。ところが、不動産会社の営業マンが、たまたま帰りのエレベーターで、佐妃子さんを名乗る女性と乗り合わせたようなんだよ、それでねぇ……」

くだんの不動産会社の営業マンが、ニセ海老澤佐妃子の嘘に気付いたきっかけが、エレベーターでの会話だった。以下のようなやり取りをしたという。

「私の田舎の茨城県には、桜のすごく綺麗な場所があるのです。ちょうどこれからが見ごろになるので、たまには田舎に帰ってあの桜が見たいな」

営業マンが彼女にそう話しかけた。すると意外な返事が返ってきた。

「私の田舎にもね、桜の綺麗なところがあるのよ。私も帰って桜が見たいわ」

積水ハウスは見抜けなかった

本物の海老澤佐妃子は五反田の旅館育ちであり、他に故郷はない。このひと言のおかげでくだんの不動産会社は仮契約寸前のところで思いとどまったという。「それでことなきをえたんだよ」と町内会の役員は、こう笑った。

「営業マンが会社に戻ったあとでその話になって、怪しいと気づいたんだ。でも、積水ハウスは違ったんだな」

海喜館の取引は、すでにこの段階で計画した内田らから小山らにバトンが渡されていたものと思われる。そこで小山たちは、手当たり次第に開発できそうな不動産会社に話を持ち込んだ。他の会社は不審に感じて契約までいかなかったようだ。こうして最後に残ったのが、積水ハウスだったのである。

 

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引用記事:

ニセ地主の「ひとこと」で地面師詐欺が発覚…「積水ハウス事件」を間一髪で回避した不動産会社が気が付いた「違和感」(森 功) | +αオンライン | 講談社(1/3)