┗“木村拓哉そっくり”芸人・元木敦士さん ©佐藤亘/文藝春秋
芸人を目指して上京すると、木村拓哉モノマネを高く評価され、数々のテレビ番組に引っ張りだこになった元木敦士(41)。やがてくるご本人との対面の時……しかしそれは彼の心に大きなトラウマを残した。中居正広の優しさとタモリの励まし、キムタク芸人をまた一歩木村拓哉に近づかせたのは、「なにがなんでも笑ってほしい」という芸人の「性」だった。
本人と間違われる条件は「遠目で、暗めで、マスクして」
――街で「あれ? キムタク?」って間違われたりすることはあるんですか?
元木敦士さん(以下、元木) 夜、仕事終わりでメイクしたまま歩いていたら、信号待ちのときに道路の向こう側でアジア系の旅行者の方々が騒ぎ出して。僕のこと指さして、騒いでるんです。
隣にいた後輩にも「たぶんキムタクと間違えてますよ」って言われたり。で、信号が青になって徐々に近づいていくと「Oh No……」って(笑)。けっこう早い段階で「違うやんけ」の顔されました。
――(笑)。
元木 実際、本人と間違われたっていうことはまだないんですけど、ただ、間違えられたら間違えられたで「ちょっとこの人ヤベえやつなんじゃないか」と思っちゃう(笑)。
もし「木村拓哉さんですよね」って来られたら「ほんとですか? 俺が木村拓哉さんに見えますか?」って。だって絶対に違うので、きっと驚いちゃうでしょうね。「遠目で、暗めで、マスクして」これらの条件がそろって稀にそういうことが発動するかもしれないですけど(笑)。
『ユーモアしちゃうよ』のMVで本人と初共演
――ご本人との初共演はいつだったのでしょうか。
元木 初共演は……15年ぐらい前かな。SMAPさんのMVに「ものまねSMAP」として呼ばれて、出演させてもらったんです。ただそのときはパッといきなり本番でSMAPさんが入られて、パッとからんで、すぐ皆さん、それぞれのお仕事に戻られていったみたいな。ご挨拶をすることもできませんでした。
――『ユーモアしちゃうよ』のMVですね。屋形船で撮影された。ものまねSMAPが歌っていると、本物SMAPが乱入してきて……木村さん、元木さんといきなり肩組んでいましたよね。あれが初!
元木 そうなんです……あの日リハの時点で木村さんは別のお仕事でいらっしゃらなくて。他のメンバーさんはそれぞれのものまねSMAPと話をしていたりしたんですが。だからいきなりぶっつけ本番、木村さんが現場に入られた時「わっ、木村さん来た!」と思って。打ち合わせもないし、どうなるんだろうと思ってたら、いきなり肩組まれて……俺、頭が真っ白になって。
ご本人に会いたいという最初の夢が叶った瞬間
――あのMVで元木さんがほんとに驚いた顔をされていたのは、そういうことだったのか……。
元木 はい。緊張とパニックで吐きそうになってました(笑)。それでそのままサッと次の現場へと帰っていかれました。だからもうわけがわかんないまま終わってしまった。ファーストタッチとしては、もう夢のような、一瞬夢を見てたみたいな感じ。
――いきなりの至近距離。
元木 だから正直、あのときは「もういつやめてもいい」ってなりましたよ。もう夢叶った……みたいになっていましたから。モノマネを始めてからの最初の夢、ご本人に会いたいという最初の夢が叶った瞬間でした。
中居との共演で怒られると思いヒヤヒヤしていたら…
――木村さん以外のメンバーと共演されたのは?
元木 一番最初は『笑っていいとも!』で中居(正広)さんと共演しました。そのときも木村さんのモノマネをやったんですけど、むちゃくちゃいい人でした。そのときは中居さんへのサプライズ登場みたいな形で、挨拶もなしにいきなりモノマネしたんです。映画『宇宙戦艦ヤマト』の公開前ということで、『ヤマト』で木村さんが言いそうなことを……扉が開いて「波動砲、発射!」って言ってガシャンと扉が閉まる。
――中居さんの反応は?
元木 僕、怒られるんじゃないかと思って、内心ヒヤヒヤしてました。番組が終わったあとに楽屋にお伺いして「すいません、先ほど木村さんのモノマネをした者です。ご挨拶に参りました」って言ったら、中居さんが、「あ、おまえか。入れよ」って言ってくれたんです。それで「ああ、おまえ、面白かったよ。もっとやれよ」って。僕、怒られると思ってたんで、わあ……中居さん!!って全身の力が抜けちゃいました。そこから半年間ぐらい『いいとも』に出させてもらったんですけど、打ち上げのときにも中居さんの隣でお酌したり。
――打ち上げで中居さんの隣に元木さんがいるの、絶対面白いですね(笑)。
元木 はい。あれは『いいとも』忘年会で、大会場に錚々たるスターが全員集合していて。僕は中居さんと同じ火曜日に出演していたんですけど、各曜日ごとに壇上に上がってトークする時間があったんです。僕も火曜日メンバーとして上がったんですけど「じゃあ代表者の方、今後の目標をお話しください」と司会の方が言うと、中居さんがずっと俺を押してくる。何で俺ごとき……ワンコーナーしか出てない俺を押すんだ、中居さん!?みたいな(笑)。ありがたかったです。
――しかしいきなりレギュラーが『いいとも』ってすごい。
元木 タモリさんもめっちゃ気に入ってくれてました。「なんなんだ、おまえは」と言って。満面の笑みで「ここまで似てるのに、おまえは何でダメなんだ」って(笑)。半年も出させていただいてると後半は飽きてくると思うんですけど、タモリさんだけは毎回笑ってくれていました。中居さんとタモリさんにはもう一度お会いしたいですね。
「あんまり受け入れられている雰囲気ではなかった」本人にネタを見せた際の厳しい反応
――木村さんご本人に初めてご挨拶したのはいつだったのでしょうか。
元木 ちゃんとご挨拶、トークしたのは2年ぐらい前の配信番組が初めてでした。そこで今後の人生を変えるほどの大失敗をしまして……。
――大失敗ですか……。
元木 木村さんの前でアピールしてくださいという企画だったんですけど、ネタは飛んじゃうし、すべてにおいて僕の力不足が露呈してしまいました……。僕としては全力でかましたんですけども、あんまり受け入れられている雰囲気ではなかった。
ご本人の前での……木村拓哉さんの前での失敗、うまくできなかった挫折は相当で、変な話、オンエアを見るのもちょっと苦しくて、実はオンエアのときは見られなくて。しばらく立ち直れなかったです。
――つらい。
元木 しばらくはダメージありましたね、しっかりと。こういう話自体も、友達や芸人仲間に「どうやった?」って聞かれたら「まあまあ、大丈夫だったよ」みたいな強がりでしか当時は言えなくて。ほんとに失敗した、自分の実力不足で大失敗したことを言えるようになるまで時間がかかりました。もういまは自信満々に「大失敗しました(笑)」って言えるんですけどね。
僕自身の憧れ、思い入れが大きすぎたからこその反動
――YouTubeでその時の動画を拝見したんですけど、ちゃんと面白かったので、まさか元木さんがそんな落ち込んでいたのかと驚きました。
元木 あの時の僕は「どうイジられようか」しか考えていなくて、でもなかなか思ったようにイジってはもらえず……。いや、木村さんはちゃんとバラエティ的においしくなるようにしてくれたんですよ。
ただ、僕自身の憧れとか、思い入れとか、抱いた夢が大きすぎた。木村さんにここで認められて、公認をいただいて……みたいな夢が大きすぎたからこその反動で。だから本当は大したことないかもしれないですけど、僕の中で勝手に落差が大きかっただけかもしれないですね。
――わかります。昔からすごく好きだった方を取材させてもらうときに、だいたいやっぱり、ああダメだったと感じてしまいます。期待値マックスの状態で臨むから、普通に終わってもそう感じてしまうのかもしれない。
元木 そうですね。僕もいろんなハッピーなことを考えて行ったからなぁ。だから、ちょっとね、折れましたね。でも、ここまで折れたのはそれだけ好きだったからだなと。思いが浅かったら、たぶんここまで折れないんで。それが再認識できたのは良かったですし、再挑戦につながったので。
インスタの料理企画で、フォロワーが17万人に爆増した経緯
――どうやって気持ちを切り替えたんですか。
元木 次もし木村さんの前に立つ機会があれば、ちゃんとモノマネ以外で見せられる部分を作ろうと。それでギターを習ってみたりとか、いろいろ試してはみたんですけど、どれもなかなかうまくいかなかった。なんとか声や歌のモノマネもできないかなって、ボイトレの教室にも通いました。
2年半通ったんですけど、先生が言ってることが全然僕には理解できなくて。ピアノで「この音を出してみましょう」って言われても「??」。月謝払ってるんですけど、逆に先生のほうから「元木さん、そろそろ……」と言われてしまいました。
――ああ、優しさからくる「元木さん、そろそろ(お辞めになったほうがいいかもしれません)」ですね(笑)。
元木 そんなパターンあります(笑)? 先生月謝入るのに!! そんな試行錯誤の末に行き着いたのが、今インスタでやってる料理だったんですよ。
――元木さんが木村さんのモノマネをしながらちょっと変わった料理を作るアレですね。
元木 あの挫折がなかったら、インスタの料理企画は始まってないです。「BISTRO SMAP」や『グランメゾン東京』などをいろいろ見て、まだ誰も作ってないアホ料理をたまにアップしていくようになりました。
そこからフォロワー数も徐々に伸びていき、木村さんのモノマネだけをやってたときは5000人ぐらいだったんですけど、料理を始めてから2、3年で、今は17万人ぐらいの方に見ていただけるようになりました。しかも海外の方が熱心に見てくれている。
木村拓哉モノマネで香港のCMまで勝ち取った
――海外の木村さんファンが。
元木 視聴者の1位が香港です。そしたら最近、なんと香港のCMのオファーをいただきました。
――すごい、試行錯誤の末に香港のCMまで勝ち取った。人生何が起こるかわからないですね。
元木 そうなんですよ。いま、香港では木村さんのCMの後に僕のCMが流れるというわけがわからないことが起きているみたいです(笑)。
――憧れの人に少しずつ近づいている。
元木 はい。木村さんは「なんやねん、こいつ」ってなってるかもしれないですね。「またこいつかよ」みたいな。いよいよお笑いとして見てくれてるかなぁ。
引用記事:
“キムタクそっくり”芸人が、木村拓哉の前でものまね披露…そのときキムタク本人が見せた“厳しい反応”「受け入れられている雰囲気ではなかった」 | 文春オンライン