先週日曜日夜「NHKスペシャル ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」が放送された。
私が最も感慨深かったのは、元フォーリーブス北公次著「光GENJIへ」(データハウス・1988年刊)をはじめ、元ジャニーズ事務所所属アイドルたちが出した一連の告白本が、ジャニーズ事務所内部で「暴露本とかに書いてあることはだいたい本当だからね」と言われていたことを、元ジャニーズ事務所関係者が証言したことだった。
これで暴露本と揶揄された一連の書も、名誉回復されるだろう。
昨年、刊行した「僕とジャニーズ」(イースト・プレス)で、私は北公次の「光GENJIへ」のゴーストライターだったことを打ち明けた。北公次が無理やりしゃべらされた、という根も葉もない噂が流れ、当事者が沈黙すれば事実とすり替えられてしまうと思って筆をとった出版だった。
番組では暴露本のひとつ、初代ジャニーズ中谷良著「ジャニーズの逆襲」(データハウス・1989年刊)を取り上げている。1967年、ジャニー喜多川元社長からの性加害について初代ジャニーズが裁判で証言するはずだったが、土壇場になって中谷氏をはじめメンバーが否定したために、性加害問題はうやむやになってしまった。
同書で中谷氏は「事前に答弁の言葉は決められていました。今だからこそ言える、いや、言わなくてはならない。私は裁判で嘘の証言をしてしまいました」と発言している。
現在、被害者に対して、謝罪と補償がおこなわれている。3年前に死亡している中谷氏の場合は、姉が亡き弟に代わって旧ジャニーズ側と接触したが、電話に出てきた補償本部長の対応があまりにもお粗末だった。
「僕その時期のことは知らないので、そこで謝罪はないと言われたら」
「何で東山が(謝罪を)しなきゃいけないのか僕、わからないんですよ」
「ちょっと僕は納得いっていないですね」
おそらく中谷良のことも初代ジャニーズのこともよく知らない若い世代が窓口になっているのだろう。これでは補償問題もなかなか進展しないはずだ。
私の知る元Jrは、小学生のころ、ジャニー喜多川元社長から性加害を受け、トラウマとなって、その後、女性と交際して手をつなごうとするたびにフラッシュバックで元社長が顔を出す。その結果うつになり、長いあいだ心療内科に通っていた。
番組は、タブー視されてきたジャニーズ事務所とNHKの深い関係に触れ、ジャニーズ所属タレントを何度も起用してきたドラマ担当の最高責任者を直撃している。
だが攻めた内容という割には、表面的である。路上で直撃した元理事は、すでにNHKの人間ではなく、今まで深い関係にあった現役の人間は登場もしないし、発言もしていない。
急転直下、中谷氏の墓参りをする姉と東山紀之スマイルアップ社長。
番組ラストで、2024年10月16日から旧ジャニーズ事務所所属タレントの出演を解禁することを告知した。今回のNHKスペシャルは批判に対応した一種のガス抜きとも考えられるのだ。
(本橋信宏/作家)
記事引用:
NHKスペシャル「ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」はガス抜きか|日刊ゲンダイDIGITAL (nikkan-gendai.com)